教えて!産婦人科の先生 妊娠前から出産後までのママの食事と栄養

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妊娠すると、女性の体には様々な変化が生じます。
その中でも大切な食事と栄養について、鹿児島市立病院産婦人科の先生方にお聞きしました。

妊娠中の食事と栄養について

妊娠中の食事はどのくらい取ればいいのでしょう?

斎藤 カロリーの面から言うと、20代の女性の平均摂取カロリーは1日1600㎉です。妊娠中は必要なエネルギー量が増加しますので、妊娠初期で+50㎉、中期で+250㎉、後期は+450㎉が必要だといわれています。(※令和元年 厚生労働省「国民健康・栄養調査」)
しかし、もともと痩せていて食事がなかなか取れなかったり、中には体重増加を気にされて食事制限をする妊婦さんもいらっしゃいます。栄養が少ないと、生まれた後の赤ちゃんの成長に影響が出ることもあるので、ある程度はしっかりとカロリーを取りましょう。どれくらいカロリーや体重を増やせばいいかは妊娠前の体重や持病等によっても違うので、医師や助産師さんにご相談ください。
栄養面では、五大栄養素をバランスよく取ることが大事ではありますが、つわりなどでなかなか苦労されている方が多いようですね。

ーつわり中に気を付けることを教えてください。

秋山 つわりは妊娠が判明して分娩予定日が決定する、かなり初期の段階で症状が出てくる方が多いですね。人によって症状は様々なんですけど、ひどい方は全く食べられないほどです。入院が必要になることもありますので、つわりがひどい場合は必ず受診してください。
また、脱水になることもあるので、妊娠初期は水分をこまめに取るようにしましょう。

斎藤 栄養も気になるとは思いますが、基本的に食べたいときに食べられるものを取ってください。

秋山 そうですね。つわりは妊娠中期頃には良くなる方がほとんどです。最初はきついですけれど、じきになくなるという気持ちでいたほうが楽ですよ。
ただ、妊娠中期〜後期にかけても吐き気が続くという方は時々いらっしゃいます。お腹が大きくなってきて、それによる圧迫もあって一度に食べきれなかったり、逆に一度に食べすぎて吐いてしまったりということもあるので、なるべく少量を頻回に取ることを心がけることが大事かなと思います。

ー妊娠中、意識して取りたい栄養素はありますか?

斎藤 妊娠週数によって必要な栄養素や量は変わってきますが、一つ目はたんぱく質ですね。赤ちゃんの身体を作るために必要な栄養素です。
 二つ目は葉酸です。可能であれば妊娠前からサプリメントや栄養補助食品を活用して取ることをおすすめします。そして妊娠中も継続して取ることが有効といわれています。
 三つ目はカルシウムです。赤ちゃんの骨や歯を形成するために必要ですが、妊娠中は赤ちゃんにカルシウムを渡すため、母体もカルシウム不足になります。その分しっかり補充したいですね。

秋山 妊娠中期以降は鉄分も大切です。鉄分を多く含む食品としては肉類や赤身の魚、納豆、ひじきなどがあります。同時にビタミンCを摂取することで吸収効率が上がります。
特定の栄養素にこだわるよりは、バランスの良い食生活を心がける方が重要だと思います。というのも、特定の食品を過剰摂取することの方が心配だからです。それでも忙しい毎日の中ではなかなか難しいですから、食事のみでは取りきれない時は、サプリメントや栄養補助食品を活用するのも良いでしょう。

ー栄養補助食品も活用していいのですね。

斎藤 食事だけでは必要な栄養素が取れない場合にはおすすめです。

秋山 つわりの時期は、不思議ですが食べたいものの感覚が普段と変わります。
特定のものしか食べられず栄養が偏ってしまいがちですし、麦茶や水ですら気持ちわるいという方もいます。 私は、妊娠期間中はイチゴばかり食べていました。あと真冬でしたがどうしても冷やし中華が食べたくなって、必死に探したりもしました。少量頻回の摂取で、味の薄いものや酸っぱいもの、乾いたもの、冷たいものなどが比較的摂取しやすいと言われます。
ゼリータイプの栄養補助食品にも、さっぱりとした味のものがありますし、飲みやすいかもしれません。
また、産後は授乳などで忙しくなります。授乳は結構カロリーを消費するのでお腹も空きやすいし喉も渇きます。夜中の授乳の合間のおやつとしても、お菓子より良いかもしれません。

斎藤 授乳期間中はカロリーが取られますし、忙しくて睡眠不足になる時期も続くので、積極的に頼っていいと思います。

赤ちゃんのために、妊娠前からできること

ー赤ちゃんのために、妊娠前からできることはありますか?

秋山 栄養バランスの取れた食生活を心がけることは重要です。妊娠前から心身の健康を整えることを「プレコンセプションケア」といいます。妊娠する可能性のある10代から閉経までの全ての女性に、ぜひ知っておいてほしい言葉です。
その一つとして、腸内環境の改善、いわゆる「腸活」があげられます。腸内環境の改善は、腟内環境や早産とも関連することがわかっています。また、動脈硬化、糖尿病、喘息、アレルギーなどとの関連もあるといわれています。普段便秘気味の方は特に心がけてください。

斎藤 腸内環境を整えることが、妊娠しやすい身体に繋がるともいわれています。

秋山 具体的には、食物繊維や酪酸菌の摂取が良いといわれています。酪酸菌は、味噌汁やヨーグルト、キムチなどに含まれています。和食はこれらをバランスよく摂取できるため、和食中心の食生活をお勧めします。
我が家は、朝はパンとコーヒーとヨーグルト、夜はご飯、味噌汁、おかずが定番です。共働き、育児中で毎日忙しいですが、作り置きを活用しています。

また、歯周病も早産などとの関連があることがわかっています。歯科検診や虫歯治療を受けましょう。
これから第2子以降も含め妊娠を考えている方は、葉酸の摂取だけでなく、口腔内環境と腸内環境の改善も大切だということをぜひ知ってほしいです。始めるのに遅すぎるということはありません。

妊娠中に避けたほうがいい食べ物

ー妊娠中、避けた方がいい食べ物はありますか?

斎藤 全く食べない方がいいものと、少量であれば食べていいものの二つがあります。
食べない方がいいものの代表格はアルコール。赤ちゃんがお腹にいる時だけでなく、生まれた後の
発達にも影響があるので、取ってはいけません。カフェインの取りすぎも注意が必要です。

秋山 それ以外だと、特に知っておいてほしいのがリステリア菌です。
リステリア菌は妊娠中に感染すると赤ちゃんに影響を及ぼす可能性のある食中毒菌です。たとえば加熱殺菌していない「ナチュラルチーズ」と記載のあるものはNGですが、「プロセスチーズ」は問題ありません。そのほか、生ハム、スモークサーモン、肉や魚のパテなどでも感染する可能性があるので、これらは妊娠中は控えましょう。リステリア菌は冷蔵庫内でもゆっくりと増加するので、期限切れの食品には注意してくださいね。
といっても、「間違えて一度食べてしまった」程度では、心配する必要はありませんが…。
※リステリア菌については厚生労働省のホームページ等にも記載があります。

妊娠中や子育て中の方へ

ー最後に、妊娠中や子育て中の方へメッセージをお願いします。

斎藤 鹿児島市立病院を受診する方は何かしらリスクを抱えている方が多いので、ここに来るまでにとても悩んで不安な気持ちを抱えている方もいらっしゃいます。でも、気負わず、頑張りすぎないでほしいなと思います。食べ物のことや栄養のことも含めて、何でも医師や助産師に聞いてくださいね。

秋山 私も2歳の子どもがいますが、妊娠中は制約がたくさんあってきついこともありました。でも、赤ちゃんが生まれるまでのこと。いつまでも続くことではないので、気負わずにいきましょう。
子育てをしながらの仕事は本当に忙しくて、それこそ食事もままならないこともあるんですけど、バランスの良い食生活、適度な運動習慣といった健康な生活習慣を身につけることは、人生の土台となります。忙しい生活の中ではどうしてもないがしろになってしまいがちですが、それでもどうか「健康の大切さ」を忘れないでくださいね。

ーありがとうございました。

本記事は「クレセール」2023年冬号に掲載した記事をweb版として掲載しています

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